
オデッセイの解錠を終え、目の前を流れるコンクリートで固められた川を眺めていた。川面は都会独特の色合いで、水が流れているのか疑わしくなる程静粛を保っている。鉛のように重い金属的な川の色。それは薄れ行く夏の名残が織りなす日差しの反射が水面をシルバーに染めているからだろう。そんな川模様にも関わらず釣り人が意外と多い。体に悪そうな水の色をしているのは完全にコンクリートで固められているせいで、水はそれ程汚れてないのかもしれない。
少し汗ばんだ髪の中を通り抜ける風は心地よく、ついつい深呼吸をしてしまう。ですが日差しの方は未だ夏を引きずり、隙有らば肌に食い込もうとする。乾き始めた空気は秋をまとい少しずつ草木を乾かす。微かに漂う枯れ葉の温かな匂いは、諦めきれない思いを抱いた時のような寂しさを伴って僕をむず痒くさせた。
そんな超小っ恥ずかしい事を考えながらモジモジとセンチメンタリズムに浸っていると、日傘をさした女性が釣り人しかいない堤防の上を歩いて来るのが見えた。大ぶりなレースがあしらわれた日傘を持つその女性の服装は、マッタリと釣りを楽しんでいる人達とは一線を画する「ゴスロリ」。川の方を見ながらゆっくりと僕の前を通るその女性は、日傘以外に何か長いモノを肩に掛けている。時折、立ち止まっては川を覗き込み、そして周りの釣り人を見回す。一体何が気になるのだろう? そう思ったところで女性は日傘を畳み、肩から下げていた細長い袋の紐を解いた。中から取り出したのは何と釣り竿。それを慣れた手付きで組み立て、あっという間に川へ針を落とした。暫くし、畳んでいた日傘を広げ頭上に掲げたその後ろ姿に、何とも言えない潔さを猛烈に感じた。
好きな服を着て好きな事をする。誰に迷惑をかけている訳ではないので咎められる謂われも、窘められる筋合もない。周りの釣り人は彼女をチラリと見るだけで、ジロジロと失礼な視線を投げかける人はいなかった。緩く希薄ではあるが、同じ趣味を持つ者同士の繋がりが見えたような気がした。 ― 彼女はそこにいて然るべく ―最後には彼女の存在に全く違和感を感じず、まして釣り人以外はあり得ないとさえ思えたのでした。
