夕方、本日受注担当のF隊長からメールが来た。内容は「成増」の二文字。F隊長が受注を受けながらメールを送信してくる時は緊急事態の合図。詳細の電話が来る前に成増方面へと向かう。程なく連絡が来て詳細を聞くと、「解錠依頼・車内には2歳の子供が閉じ込められている」
やはり緊急事態だ。
連休最終日の夕方とあって、幹線道路は何処も詰まっている。バイクの機動力が生かされる瞬間。
現場は入り組んだ住宅街の袋小路。子供のお父さんが、表の道まで出てきてくれていた。
車の横では、お母さんが泣きながら中の子供に声を掛けている。僕が走り寄ると震える声で「お待ちしてました、お願いします!」と言ってその場に座り込んだ。作業の準備をしながら車内の様子を伺うと、子供は大声で泣きながら暴れている。
早く出してあげなければ! 気持ちは逸る。車はマークⅡ鍵はハーフ鍵穴を覗くと中は大量の汚れでディスクが良く見えない。市販の鍵用潤滑剤を使ったものと思われた。ディスクに触ってみても著しく反応が悪い。そのままピックしても開けられるが、事は急を要する。飛ぶようにバイクまで戻り、洗浄用のスプレーを持っきて「これでもか!」と鍵穴にかけまくる。その時、後ろから「ここの場所は直ぐに分かったか?」との声がする。振り返るとそこにはおじいさんが立っていた。「何とか迷うことなく着きました」と言うと、軽く頷いてからおじいさんは車に近付く。そして、窓に張り付き中の孫に「○○ちゃん頑張れと!」と声をかけ始める。
作業をするにはメンタル的にチョット厳しい。だけど、この種の鍵は散々現場で開けている。直ぐに半分まで回す。
「もう開きます!」僕が言うと、中の子供以外一斉に口を噤んだ。残りを迷うことなく入れ、シリンダーを回しドアノブを引く。「開きました!」と告げると、お母さんは唇を震わせ声にならない声で「ありがとうございます」そう言うと堰を切ったように大粒の涙がこぼれだ出した。
現場到着から開錠まで約3分車外に出された子供に弱っている様子はなかった。それを確認してホッとするH隊員、緊張が解かれる瞬間です。
書類作成後、現場を後にしF隊長に終了メール送る。直ぐに返信が来た。本文には「東中野 お急ぎ」どうやら余韻に浸っている時間は無いようです。
