
日も暮れた頃、フォード・フォーカスの解錠依頼。現場は工場が密集する工業地帯の中にある駐車場。一区画が広大過ぎて該当駐車場に辿りつくまで時間がかかってしまった。お客さんと合流後、現着までの時間を挽回するべく”即効解錠!”と意気込み車に近付くと、窓からびよょんと何かが飛び出していた。辺りは暗く街灯もないので、ドアの前に行くまで何が飛び出しているのか分からなかったけど、それがワイヤーハンガーだと理解した瞬間、今日の午前中にあった依頼を思い出し、僕は暫し固まった。
… 午前中、ホンダ・ステップワゴンの解錠依頼でお伺いしたお客さん。開口一番「この車は窓の隙間から開きますか?」との質問を受けた。車輌は内溝キーが付いた年式だったので、開かない可能性がとても高く、まして集中ロック等の配線を断裂する危険性が非常に高い旨をお伝えする。するとお客さんの隣にいた奥さんが「お父さん…」と絶句し気の毒になるくらいの落胆をされた。もしやと思い「窓から何か差し込まれましたでしょか?」とお聞きすると「はい…2時間程やってました…」とお客さんは言われた。最悪、錠から繋がる連結が外れ(または折れ)ピッキングでの解錠が難しいかもしれない事をお伝えし解錠作業へ。内溝キーを触り始めて程なくシリンダーを回すと、それと連動し車内のロッドが動く。そしてノブを引くと問題なくドアが開いた。その後、車内からカギを取り出しリモコンのボタンを押して頂くと、窓から何かを差し込んだドアだけ反応がない。何度やってもそのドアだけは悲しくも動かず、それを把握した奥さんが「もう…お父さん… 」と項垂れてしまった …
日中の事を思い出し、恐る恐るフォーカスのお客さんに「窓から何か出ててるのですが、お客さんご自身で…」とまで言ったところで、「あ、これ?ゴメンネ邪魔だよね、今抜くから」とお客さんは物凄い勢いでワイヤーハンガーを引き抜かれた。その瞬間、バギン!とドア内部で激しい音。そして何事もなかったようにハンガーを折り畳みジーパンの後ろポケットにねじ込まれた。あっけに取られている場合ではないので「窓から何かを差し込みロック解除をしようとした場合、内部を破損…」と説明しようとしたところ、「鍵穴から開かなくても他に開ける方法ありますよね?」と何とも男前なご返答。取りあえずいつも通り鍵穴からアブロイ錠を解錠し、それでも開かなければ改めてご説明させて頂こう。と言う事で鍵穴に工具をセットし解錠を試みた。数分で全てを揃え終わり、緊張しながらシリンダーを回すと、ガチャリとロック解除音。そしてノブを引くと静かにドアが開く。何かを差し込んだ為の不具合はなかったようで一安心です。その後「ありがとう!」と窓から手を振り、ゆっくり走り去るお客さんのテールランプが見えなくなるまで見送った。
自分の足元さえ見えない闇の中に一人取り残され、ふと今日一日の事を思い返してみる。するとステップワゴンの前で激しく落胆する奥さんの顔がぼんやりと浮かんだ。その落胆する顔を思い出し、そして旦那さんの事を思い、何かちょっと凹んでしまったのでした。
