
深夜、アウディTTの解錠依頼。
作業を始めて直ぐ、足元で「コン」と音がした。何だろう?とそちらを見ると、お客さんが僕の足元に缶コーヒーを置き「飲みながらやって下さい。急ぎませんので」と言われた。ありがとうございますとお礼を言うとお客さんは「今日はですね、散々な一日でだったんですよ」と言われた。その顔は笑顔でこそありましたが、うす暗い所でもハッキリと分かるほど憔悴しきっていた。何か大変な事があったのですか?とお聞きすると、「聞いてくれますか?」と力なく話されたその内容は、まさに不運の連続だったのでした。
「今朝は仕事の都合で出る時間が早かったのでタクシーに乗って出勤したんですよ。で、会社に着いて暫くしてから自宅の鍵が無いのに気付いたのです。忘れてきたのかと思い自宅に電話したんですが嫁が電話に出ない。買い物にでも出かけたかな?と携帯にかけてみたら今成田空港にいるって。なんで成田にいるの?と聞くと今日から海外旅行に行くと言うんですな。僕はすっかり忘れてましたよ。もう仕方がないのでそのまま仕事しながらマンションの管理会社に連絡して、合鍵を取りに行く手筈を整えたんですね。で、仕事の合間にタクシーで合鍵を取りに行ったまでは良かったんですが、仕事が終わってから友人と呑みに行ったらそこで置き引きに遭ったんですわ。もう最悪です。財布は持っていたので問題なかったんですが、盗まれた鞄には折角取ってきた自宅の鍵が入っていたのですよ。何の為に取りに行ったんだって話ですよね、全く。管理会社にはもう合鍵が無いので、さっき鍵屋さんに来てもらい自宅の鍵を開けて貰ったとこなんです。」
一気にここまで話すと大きくため息をつかれた。
「やっとこ自宅に入る事が出来て、忘れて行った鍵を捜したんですが無いんですよ。散々捜したけどやはり見つからない。自分の行動を思い返してみると朝に乗ったタクシーの中で落とした以外に思いつかない。で、タクシーの忘れ物センターに連絡したんですが、それらしい届はないと。あと考えられるのは道に落としたって事かなぁ?と警察に行ったけど、こっちもそれらしい届はないって言われました。取りあえず自宅に予備鍵があるので当面は何とかなりますが、無くした鍵束に車のキーも付いてたんですよ、それも最後の一個が…」
しゃがみ込んで地面を見つめるお客さん。どう言葉をかけて良いのか分からず、シドロモドロの末に出てきた言葉は「お気を落とさずに」
こんな時、気の効いた一言が言える大人になりたい。
