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忍びの者

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山梨県某所よりコルベットC6の解錠依頼、現場は山の中腹にあるゴルフ場。クネクネと九十九になった道をひたすら登った先に現場はあった。

時刻は夕方、プレーを楽しんだ方達も殆どが帰り、駐車場にはお客さんの車とゴルフ場関係者の車しかなかった。コルベットの隣にバイクを付けキルスイッチでエンジンを止めると「お待ちしておりました。お客様がお待ちです」と真後ろから言われて驚いた。今来たばかりの僕の後ろにいつ来たのか、スーツをビシっと着こなした初老の男性がいた。胸には名札が付いていたのでゴルフ場関係者と分かりましたが、この広い駐車場のどこにいて、いつの間に僕の後ろに来たのだろう? 息も乱れていないし、その出で立ちに隙が一切感じられないので走って来たようには見えない。何とも不思議な感じがした。

お客さんと合流し作業の準備をしていると、先程の初老の方に小声で「どのくらいの時間がかかりますか?」と質問される。お客さんに聞かれると不味いのかと思い僕も小声で「10~20分位頂けますでしょうか?」とお伝えした。すると初老の方はニコっとなり「それは良かった、助かります」と僕に言い、その後お客さんの方へ行って何か談笑していた。もしかしてインロックしてしまったのはお客さんではなく初老の方なのだろうか?そんな事を思いながら下準備を続けた。

解錠を完了させ、後はロックを解除させるだけの状態でお客さんを呼ぼうと思っていましたが、勢いでロックを解除してしまい警報が発報。木々に囲まれた静かな駐車場にクラクションが鳴り響く。お客さんを呼ぼうと直ぐに立ち上がると「予定より早かったですね、ありがとうございます」との声がまたも真後ろから聞こえた。警報が発報したのより驚いて振り返ると、そこには初老の方がいた。ついさっきの1分前まで、遠く離れた場所でお客さんと談笑していた筈、いつの間に僕の真後ろに。周期的に鳴り響くクラクションに曝された状態で、疑問符が大量に噴き出してしまった僕は暫し固まってしまった。

帰り道、クネクネと曲がる下りの道を楽しみながらも頭の奥に引っかかる事が一つ。何故後ろに付かれた事に気付かなかったのか?その事を気にしだしたら考えが止まらなくなり集中力が低下してきた。このまま山道を下るのは危ないなと思い一旦バイクを止めヘルメットとグローブを取った。ボーっとその思いに囚われていると風になびく木々の音以外に途切れなく連続したノイズの様な音が聞こえる。あれ?っと思いその音に集中すると鮮明に判断できるようになってきた。そのノイズはどうやら風切り音の様です。高速で長らく走った為、耳に残ったのでしょう。ヘルメットのシールドベースが一部疲労で折れてしまい、シールドの閉まりがしっくりきていなかったので、風が隙間から入っていたのではないかと。予備はあるので帰ったら交換です。真後ろに付かれて気付かなかったのは、この風切り音で耳が遠くなっていたのが原因かと思われます。

それにしても、初老の方がなんとなく牧 冬吉さんに似ていたので、忍びの者かもしれないと思ってしまったのは、この小さな胸にしまっておく事にします。

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