
夜が明けきらぬ頃、クラウンマジェスタ解錠依頼。出勤前で急いでいるお客さんをお待たせしないよう、内溝キーを超速効で解錠し出勤をお見送りする。その後、終了報告を入れ一息ついていると、ママチャリに乗ったオバちゃんが猛烈な勢いでこちらに向かってくるのが見えた。立ち漕ぎこそしてないがクランクを回す足は全力全開で、みるみるこちらに近づいてくる。そしてその後ろ遠くにはタクシーが見えた。あっという間に僕のいる交差点近くまで来たオバちゃんは、四辻の手前で右手をLの形でサっと上げた。それは【手信号】、ウインカーと同じ意味をなすジェスチャー。そして殆ど減速する事なく結構な勢いで右に曲がった。後ろから来ていたタクシーは、突然目の前を自転車が横切ったので急ブレーキを踏む。早朝の静けさを切り裂く強烈なスキール音が辺りに響き渡り谺した。その音に驚いたオバちゃんは横道に入った僕の目の前で止まり、一瞬驚いた顔をした後タクシーを睨んだ。タクシーのドライバーは窓を開けオバちゃんに向かいなにやら怒鳴る。オバちゃんも負けじと怒鳴り返す。そうこうしていると後続車が来たらしく、タクシーはそのまま走り去ってしまった。
興奮覚めやらぬオバちゃんは目の前にいる僕に「アタシは手信号で曲がる合図をちゃんとした、なのにあのタクシーときたらヒドイと思わない?お兄さん??」と聞いてきた。一部始終を見ていた僕としては正直に言うしかなかった「今のはオバちゃんの方が悪いかも」と。そうするとオバちゃんブチ切れて「あんた全部見てたでしょ!!アタシのどこが悪いのよ!!!!」と怒鳴りだした。もうなんだか激しく面倒臭くなってきたのですが、余計な事を言った手前、何が間違っていたのかをオバちゃんに伝えることにした。「オバちゃんは右手をL時で上げたでしょ?あれは右折の合図じゃなくて左折の合図ですよ」一瞬ポカ~ンとしたオバちゃんでしたが直ぐに覚醒し「手信号は、右に曲がる時は右手をL字で上げて、左に曲がる時は左手をL字で上げるのヨ!あんた知らないの!!」とまくしたてた。オバちゃん、それ両方共間違ってるよ。
憎悪に燃えた目で睨みつけるオバちゃん。怖気付いて逃げたい気分の僕。でも一応正しい手信号を伝えた方が良いような気もする。恐る恐る「右手で右折の合図をする場合は真っ直ぐ水平に出すんですよ、右手をL字で上げたら左折の合図。で、左手で右折の合図をする場合はL字で上げて、左手で左折を合図する場合は水平に上げるんですよ」とジェスチャーを交えて説明した。すると黙って聞いていたオバちゃんは「うるさい!!」と捨て台詞を残し猛烈な勢いで走り去ってしまった。
ポツンと一人取り残されたような僕の回りは出勤する方達が足早に通り過ぎて行く。ふと見上げたマンションの窓からは住人の方達が僕を見ていた。そうして僕の月曜日は始まったのでした。
