
早朝、メルセデス・CLKの解錠依頼。お客さんはCLKの所有者ではないので車輌ナンバーは分からない、車の止めてある場所も不明、そして現金での支払い。取り敢えず指定した場所での待ち合わせ。その後、お客さんと一緒に車輌まで向かうと言う案件。なんだか不明ばかりで釈然としない部分が多いが、指定場所で最初に支払いを済ませたいので兎に角来て欲しいとの事。お客さんにも色々と事情があるのだろうと考えながら待ち合わせ場所に向かった。
指定された住所に到着すると、そこはガソリンスタンドだった。「ガソリンスタンドとは聞いてないなぁ?」と思いながらもお客さんに連絡すると、スタンドの制服を着た人が携帯片手に中から出てきた。「スミマセンねぇ朝早くから、直ぐにお支払いしますのでこちらへどうぞ」とスタンドの詰所に通された。そこで現金を頂く前に一通り聞けることは聞いておこうと「インロックをした車はお近くにあるのですか?」とお聞きすると、「えぇ~っとですね、多分3キロ位離れた場所なんですが、僕も正確には分からないんですよ。ウチのお客さんの自宅なんですけどね。後で連絡して確認取りますので」と聞こうと思っていた事が全て聞けた。そして「僕個人にとって死ぬほど大切な人なんですよ、恩人なんです。なので何とかしたくてお願いしました」そう言ってお客さんは少し恥ずかしそうな顔をされた。
支払いは解錠後で結構ですよと申し出ても、どうしてもこの場で前払じゃないと困ると言われたので、お言葉に甘えて先に精算させて頂いた。その後、お客さんの車の後に続き現場に向かった。
現場は大きな一軒家。そして車の持ち主は玄関先でお待ちだった。お客さんが車から降りるとCLKの所有者さんは「朝っぱらからすまないねぇ」と言われた。するとお客さんが「社長、大丈夫ですよ!朝っぱらといってもウチはもう営業するところでしたから!!」ととても嬉しそうに言う。そして「直ぐにプロが開けますから大丈夫ですよ!!」と僕の方を振り返った。
作業中、お客さんと所有者さんの話しが耳に入ってきた。社長「ゴルフに行こうと思ったら鍵がないんだよね、さんざん探してもないからトランク意外に考えられないのだよ」 お客さん「ゴルフクラブをトランクに入れた時、一緒に置いちゃったんですかね? 多分、中にあるから大丈夫ですよ!」 社長「それよりお幾らくらいかかるんだい鍵開けは?ベンツは高いんじゃない??」 お客さん「そんな!!お金なんて大丈夫ですよぅ、僕が入っているロードサービスで無料のサービスだから心配はいりませんって!! だから社長も僕も懐は痛みませんよwwww」
僕は嘘を聞いた。でもそれは健気で良い嘘なのかもしれない。僕は数分前に精算した事を一旦記憶の奥底にしまい込み、少し滲んで見えるスコープ越しの内溝を凝視した。泣いてないっすよ、ちょっとウルっときただけですよ。
