
レガシーの解錠を終え、近くにあった桜の木の下で終了報告をしている時、「あーっ!やられた!!」と悲痛な声が聞こえてきた。電話を切った後、声の方を見るとお婆ちゃんがしゃがみ込み植木鉢を覗き込んでいた。どうしたのかなぁ?と思いつつも、頭上に広がる散りゆく桜の方が気になり、目を細め上を見上げていた。ふと視線を戻すと僕の方へお婆ちゃんがやってくる。軽くお辞儀をされたので僕もお辞儀を返すと「ちょっと聞いてよお兄さん」とお婆ちゃんは話しだした。
「あそこの鉢植えね、私が丹精込めて育ててやっと今朝咲いたのよ。そして喜んで見ていたら通りすがった年寄りが1本花をくれと言ってきたのね。やっと咲かせたのに、それを切ってあげる訳ないでしょ? なのでやんわりと断ったのよ。そうしたらケチだなんだと悪態をついてその年寄りはどっか行ったのね。で、今見たら全部切られて花が無くなっているのよ、酷いと思わない?きっとさっきの年寄りが盗んで行ったのよ!!」
80を超えたであろうお婆ちゃんが猛烈に怒っている。その唇は怒りのせいか少し震えていた。何を話していいのか判らず「その人がやったか分かりませんが、酷い話ですね」と言ったら、「間違いないわよ!!あんなにケチだの死ねだの酷い事を言ってったんだから!!!!」と逆鱗に触れてしまいました。その後、暫しお婆ちゃんの話しを聞いた。花の話から始まり、最近の出来事、そして身の上話から若かりし頃の話しまで。ほの暖かい日差しの下で、暫し黙って頷いていた。
十数分話してお婆ちゃんは満足したのか自宅へ戻っていった。そして愛おしそうに花の無くなった鉢植えを抱え家の中に入っていった。酷い事をする人がいるもんだと思いながら、以前自宅で育てたヒマワリが、種をつけた途端盗まれたのを思い出した。
お婆ちゃんの花と自分のヒマワリ。盗まれてしまった事を思い、なんとなく脱力をしてしまった4月の昼下がりでした。
