
クラウンのトランク解錠で訪れたのは茨城県にある山の麓。真っ暗な納屋の中でライトの灯りを頼りにトランクの鍵穴を覗く。足元の踏み固められた土は、陽に当たらない事による独特の匂いがして、子供の頃の懐かしい記憶がボンヤリと浮かんでは消えた。
「真っ暗でゴメンなさいね」とご依頼のお婆ちゃんが申し訳なさそうに言われる。その姿は納屋の外から差し込む月の明りで薄っらとシルエットが見える程度。慣れているからなのか、お婆ちゃんは懐中電灯さえ持ってきていない。「大丈夫です。それより足元に気を付けて下さい」と僕が言っても「なぁ~に言ってるの、自分の家よぉ。全然大丈夫っ」と笑っていた。
程無く解錠し鍵を取り出すと「ここは暗いので家に来て下さいな」と隣にある母屋へ招かれた。お婆ちゃんは足元どころか直ぐ前も見えない中を、母屋の灯りに向かいスタスタと歩いて行った。そして僕はと言うと、さっきまで明るいライトで鍵穴を覗いていたので瞳孔が収縮しきって辺りがよく見えない。お婆ちゃんに遅れる事暫し、ヘッドランプの灯りを頼りに半分摺り足で母屋へと向かった。
お婆ちゃんの家は歴史を感じさせる古民家。部屋の間仕切りの殆どはガラスの引き戸、それ故大きな家が更に広く見えた。冷蔵庫から缶コーヒーを持ってきて「これ、飲んで下さい」と僕に手渡すと、お婆ちゃんは家族構成の話しをされた。要約すると、敷地は500坪で母屋の奥に別宅があり、そこには息子夫婦と孫が住んでいる。母屋には最近まで姑がいたが亡くなってしまい、今はお爺さんと二人暮らし。息子夫婦と孫は毎日母屋に来るけど、寝食は別なのでお爺さんと二人で食べ、そして寝ている。お爺さんは何かと忙しく出かける事が多いので、一人で過ごす時間が長いとの事。「お兄さん、寂しいでしょこの家?」と突然お婆さんが言われた。ハっ!として部屋の中を見回していると「そうじゃなくてぇw 同じ敷地で暮らしているのに住む家が別でご飯も別な事よぉw」と笑いながら僕の肩を小突いた。
人が寂しいと感じるのには理由がある。その元となるものは人それぞれで、その理由を当人が語らずに第三者が把握するのは難しい。近くにいる身内でさえも気付くとは限らない。否、身内だからこそ心配をかけまいと、その片鱗を仕舞い込むのかもしれません。
「お兄さん、寂しいでしょこの家?」
お婆ちゃんの言葉が胸に刺さって抜けません。
