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父の思い

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深夜、鍵はあるけどドアが開かない、もしかするとバッテリー上がりかも?との依頼で現場に到着すると、二十歳前後の女性がお父さんと一緒に軽自動車の前でお待ちだった。トラブルに関しての心当たりを伺うと、実家の前に駐車した際ハザードを消し忘れてしまい、数時間後に帰ろうとしたらリモコンが効かなくなっていたらしい。そして「鍵がないんです、数時間前に盗まれたんです」との事。咄嗟にその意味を理解することが出来ず固まっていると「ちょっと見てもらっていいですか?」と言われ運転席側へ。そこでドアノブを見てビックリ、付いている筈のキーシリンダーはドアノブの一部を破壊されて抜き取られていた。確かにこの状態でバッテリー上がりを起こすとメカニカルキーがあってもドアは開けれない。その想像すら出来なかった状況に暫し呆然としてしまった。

キーシリンダーを盗まれるのは単なるイタズラの可能性もありますが、一番に考えなければならないのはやはり車輌盗難。女性と言う事を踏まえるとストーカーなんかの可能性も無きにしも非ず。「バッテリーが直ればこのまま乗っていても大丈夫ですか?」とのお客さんの問に、破損状態を確認して貰いながら現状で乗り続ける事に伴なうリスクの話しをさせて頂いた。するとキーシリンダーの抜き取りに気付くまでに起こった事を話して下さった。その話しをまとめると、■仕事場から車でアパートに戻りお風呂に入っているとカタカタとドアポストの開く音がした ■室内で息を潜めているとドアの向こうに人がいるような気配を感じた ■暫くじっとしていると気配は消えた ■アパートに一人でいるのが怖くなり実家に行こうと思ったら車体のキーシリンダーが抜き取られていた、と言うことらしい。

全ての作業を終えたところで「車は明日修理に出します。今夜はアパートに戻らず友達の所に泊まります」とお客さん。お父さんは実家に泊まっていけと言っていたけど「明日休みのその友達が車を修理に出してくれるので」と笑顔で手を振り友達の元へ車を向けた。残されたお父さんは溜息を一つ、そして「心配です」と呟く。その横顔を見ていると胸の内が痛いほど伝わってくる。娘を思う父の姿を目の当たりにして、僕は言葉を発する事が出来なくなってしまった。

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