
早朝、国産コンパクトカーの解錠依頼で現場に到着すると、該当車両は両ドアのキーシリンダーが破壊されていた。お客さんは「ハッチバックの鍵は壊れていません。そこは大丈夫なのでハッチを開けて貰えますか?」と言われた。両ドアが完全に穿られて壊されているのにお客さんが落ち着かれているのは、それが昨日今日の事ではなく随分と前に受けた被害の場合が多い。今回もそうなのかな?と思いながら、車上荒らしですか?酷いですね、被害はありませんでしたか??とお聞きしながら解錠準備をしていると「実はそれ、僕がやったんです…」と俯き加減でお客さんが言われた。え!ご自分で?と僕が驚くと「ええ…それも今さっき…」と更に俯いてしまった。
今朝出勤しようとしたところ鍵がいつもの場所に無い。あれ?オカシイな??と家の中を探しまくったが全く見つからない上、今日は遅刻をする訳にはいかない非常にやヴぁい日。何としてでも通常通りに出勤しなければならないので、取った手段がキーシリンダーの破壊。元々助手席側の鍵は調子が悪かったのでそこなら良いやとあっさり破壊。ところが一向にロックが解除される気配がない。このままではマズイ、どうしたものか?と悩んで思い至ったのが、助手席側は調子が悪かったので開かないのだとの結論。じゃぁ運転席側を破壊しよう!と脳裏に浮かぶが、さすがに運転席側の鍵も壊せば後々多大なる不自由や何やかやが生じる事は容易に想像できる。どうしたらよいのか…?… 無情にも時間は刻々と流れて行く。その切迫感がお客さんの正常な判断力を失わせた。そして背に腹は代えられないと言う思いで運転席側に禁断の一撃を入れてしまったのでした。ところが、運転席側のキーシリンダーは自分の役目を全うし頑なに不正解錠を拒み続けた。その結果今回の依頼となったようです。
ハッチを解錠するとお客さんが待ってましたと車内に滑り込み、猛烈な勢いで鍵の捜索を始めた。声をかける雰囲気ではなかったので書類の作成をしながら暫く待つ事に。数分後、車内から出てきたお客さんは「鍵が車内にありません…」と言われるとガックリと肩を落としその場にしゃがみ込んでしまった。
カツカツとハイヒールから小気味よい音を出して歩くOLさん。しゃがみ込んだお客さんと立ち尽くす僕を不思議そうな顔で何度も振り返りながら見ていた。何気ない日常、その中に僅かながらに存在している非日常、その非日常に僕とお客さんはやんわりと包み込まれていたからだろうか?
