
深夜、メルセデス・SL500のトランクインロック。現場迄の距離が拠点から100km程あったので、到着は明け方に近い時間になっていた。
入口のシャッターを1m程だけ開けて静まり返っている修理工場は、畑に囲まれた静かな川沿いにぽつねんと建っていた。その為か僕が到着するとバイクの音に気付きお客さんが直ぐ中から出てきて下さった。そして「遠くまで大変でしたね」と労いの言葉を頂いた後、少し眠そうな目を擦りながらインロックの経緯を教えてくれたのでした。
自分の所で販売したSLではないが、古くからの知人が乗っているという事で修理依頼を受けた。故障は電動ハードトップの動作エラー?か何かで、整備マニュアルによると原因の特定にはトランク内のバッテリー端子を外しリセットをする必要があった。マニュアルに従いマイナス端子を外してトランクから上体を起こす。暫く待ってから外した端子を繋ごうとしたところで突然の突風。次の瞬間トランクが閉じてしまった。幸いリモコンキーは手元にあったので中からメカニカルキーを取り出そうと思ったら… 無いのです、金属の鍵が入ってないのです。紛失したのかと思い虱潰しでアチラコチラを探したが見付からない。残すところはトランクの中しか考えられないが、如何せんトランク内のバッテリー端子を外しているので手元のリモコンが利かない。そしてトランクを開ける鍵はトランクの中と言う非常にもどかしい状態に陥ってしまったとの事でした。
何時ものように粛々と下向きシリンダーを解錠。トランクを持ち上げると無事にメカニカルキーを発見です。「あぁ… これでやっと帰れます… 」 お客さんは欠伸を噛み殺しながら大きな溜息をついた。
「今度から作業を行う時、メカニカルキーは事務所に置いとく事にしますよ」 そう言って笑ったお客さんの後ろの空は既に白み始めていたのでした。
