
軽自動車の解錠依頼でお伺いしたのは、2階建てで各々の玄関前に駐車場があるタイプのメゾネット。依頼車輌前の玄関にはお客さんの表札があった。
電話をかけて現着を伝えると「そこの軽自動車なのでお願いします」と、それだけ言うとお客さんは電話を切ってしまった。そう言われても確認事項をすっ飛ばす訳にもいかないので再度電話をかけて免許証のご提示をお願いする、すると「…確かに確認は必要ですよね… でもそこにあるのは私の車で間違いないので今回はそのまま開けて頂けますか?」と出てきてくれそうになかった。何か出てこられない事情でもあるのかもしれないので、今不都合でしたら一旦キャンセルで後ほど再依頼が宜しいですか?と聞いたところ、「それは困ります出かけなければならないので… はぁ… では今出ます… 」と溜息交じりで電話が切れた。
それから数分後、玄関の戸が少しだけ開き、そこから免許証を持った手がスっと出てきた。近付いて免許を受け取りドアの隙間から中を見ると、口元を押さえていたハンカチを外しニッコリと笑顔の若い女性がいた。その後またハンカチで口元を覆うと「鍵が開いたらピンポンを鳴らしてください」と免許を僕に預けたまま玄関を閉めてしまった。なんとなく腑に落ちない感じがしないでもないが、具合が悪そうでもあったので無駄な詮索はせずサックリと軽自動車の鍵を開けた。
後はサインを頂くだけに仕上げた書類を持ってピンポンを鳴らすと、「後は自分で鍵を取るので大丈夫です」と出てきてくれる気配がない。そう言われても免許証を返さなくてはならないし書類へのサインもお願いしたい、その旨をお伝えすると暫くして少しだけ玄関が開いた。その僅かな隙間からクリップボードと免許を渡そうとした時、お客さんの顔から黒い何かが落ちた。あれ?なんか落ちたぞ?とお客さんの顔を見ると、右の鼻の穴からつつーっと鼻血が一筋。ビックリして「鼻血が出てます!大丈夫ですか!!」と言った瞬間、バタムと玄関が閉じてしまった。
どうやらお客さん、鼻血の止血でティッシュを突っ込んでいて、その姿を見られてくなかったようです。「鼻にティッシュ詰めた姿を見せたくなくないばかりに変な応対をしてスミマセン。諦めて鼻にティッシュ詰めます。もうそこの植木鉢みたいで恥ずかしいわー」と鼻の穴から三つ葉を出した植木鉢を指差し、お客さんは笑うのでした。
