
前へ (まとめ)
作業中、Tさんはずっと傘をさしてくれました。開始早々「ちょっと時間かかりそうです」と伝えると・・
「慌てないで。ゆっくりやって下さい」と震える声で励まされました。スーツにコートだけのTさんには厳しい気温だったと思います。
今なら「どこかで雨宿りして」と言えるかもしれませんが・・当時はそんな余裕はありませんでした。スコープの曇りが取れるのを待ってる間、ネガティブな思いがふくらんできて、「このまま開かなかったら・・」というのも考えましたね。
自分が勝手に飛び込み営業しただけだし・・そうだ。もともと何もなかったと思えば・・Tさんには申し訳ないけど、この天候ならしょうがないよな・・絶体絶命でも、他のせいにすることで幾分気持ちが軽くなるというか、ほんの少しの間でも辛い状況を忘れられました。
次第に指先の感覚はなくなっていきました。足元に目をやると、Tさんの革靴は水たまりの中です。
この世で2人だけが取り残された感じというか・・筑波山の麓は静かに厳しい時間だけが流れていきました。
