
トヨタ・ノアの解錠依頼。現場は一戸建ての駐車場で、若い奥さん立会いのもと車に近付くと、辺りに微かな線香の匂いを感じた。
作業の準備をしながら話しを伺うと、家の中にある筈の鍵が長い事見付からないので車内に置いてある予備鍵を取り出したいとの事。
程なく解錠を終えてドアを開けると、小学校低学年くらいの女の子がやってきて「お母さん何してるの?車どうするの??」と言いながら助手席のドアを開けて車内に入った。奥さんは運転席ハンドル前にあるユーティリティボックスを開けて予備鍵を取り出し、「○○ちゃん、今日は久しぶりに車で買い物に行きましょうね」と声をかけていた。
バッテリージャンプも追加でエンジン始動の確認後、書類へサインをお願いすると、すっと僕の目を覗き込んだあと書類に目を落とし、「主人が亡くなって以来、鍵の所在が分からなくなっていました、でもこれで車が動かせます。私、今まで運転をしていなかったのですが、これからは車で出かけられるようになろうと思っています」と奥さん。一瞬どう返答して良いのか分からず、しどろもどろしながらゴニョゴニョと口ごもってしまい、結局言えたのは「大変だったんですね」。 本当に駄目なヤツだなと自分にガッカリです。
「ペーパードライバーなので少しずつ練習をして、子供の夏休みまでには遠出できるようになりたいんです」。そう言いながら車内の子供を見詰め、奥さんは目を細めた。何か言わなきゃと思い、「最初は怖いかもしれませんが運転は慣れだと思います!」と僕が言うと、「私は鈍い方なので慣れるまで時間がかかるんじゃないかなぁ?でも頑張ります」と屈託無い顔をされた。すると車内でゴソゴソしていた子供が「あ~っ!お父さんの煙草があるー、もうお父さんったらぁ、煙草吸うのお父さんだけなんだからこれどうするのよー、もう! 煙草を残して死んじゃわないでよね!」と言った。
子供の言葉と半分笑顔のような奥さんの横顔が胸を締め付けます。僕はまたも言葉に詰まり、奥さんの横で身動ぎも出来ず、ただただ車内の子供を見詰めました。
